老舗弦楽器専門店「文京楽器」のデジタルマーケティング総合支援。「伝統を守りながら、革新する」──文京楽器が挑んだデジタル化の6年
- 株式会社文京楽器

語り手
株式会社文京楽器
代表取締役社長 堀酉基様
戦略事業課長 窪田陽平様
聞き手
ワンバース株式会社
代表取締役 千葉一生
「すべては、プレイヤーの喜びのために」
1947年創業の老舗弦楽器専門店として、良質な入門用楽器からオールドイタリアンの名器まで、お客様一人ひとりに最適な一挺を提供し続ける文京楽器様。同社は近年、デジタル発信の強化にも注力しています。
ワンバースは、2018年10月よりデジタルマーケティングの戦略立案から実行支援まで一貫してサポート。ダッシュボード設計、Web広告運用、SEOやサイト改善、公式サイト制作、ECサイト構築、LINE公式アカウントの構築・運用まで、支援領域は多岐にわたります。
今回は、代表取締役の堀様と戦略事業課長の窪田様にご登場いただき、6年にわたる取り組みを振り返りながら、成果やご感想を伺いました。
あらためて貴社のサービスについて教えてください。
堀:
文京楽器は、1947年に創業した弦楽器専門店です。バイオリンやチェロを中心に、販売・修理・鑑定といった専門的なサービスを提供しています。初心者の方からプロフェッショナルな演奏家まで、幅広いニーズに応える品揃えを誇り、世界の名器から国産の逸品まで豊富に取り揃えています。店内には熟練の職人が常駐しており、お一人おひとりの演奏スタイルに合わせた丁寧な調整・メンテナンスを行っています。
文京楽器 公式サイト:https://www.bunkyo-gakki.com/

弊社へご依頼いただく以前の課題について教えてください。
堀:
2016年に代表取締役社長に就任し、本格的に経営を引き継ぎました。
創業以来の伝統を守りながら、時代に合ったブランドイメージへの転換が課題でした。
これまでも自社サイトやSNSを活用してきましたが、本格的なデジタル施策にはなかなか踏み出せずにいました。
たとえば、バイオリンの音色紹介などのSNS投稿も「軽く見られるのでは」と懸念がありましたし、楽器の来歴に配慮する必要があるため、情報開示にも慎重さが求められました。
千葉:
当時は、どのような取り組みをされていたのでしょうか?
堀:
商工会議所のセミナーに参加したり、独学で情報収集もしながら、Webサイトの改善を行っていました。SNSについても、当時は「どのようにフォロワーを増やすべきか」が課題でした。
しかし、Webの領域は、どれも専門性が高く、自社だけで対応していくのは現実的に難しいと感じていました。トレンドの変化が激しく、SNSも次々と仕様が変わる。
そうした変化に事業運営と並行して対応するのは限界があり、専門的なパートナーと組む必要性を感じていました。

千葉:
Web業界の領域の広さと複雑さを日々感じています。事業主が本業と並行して対応するのは難しいと思います。
堀:
弊社は販売スタッフ10名、製作部門10名という小規模な組織ですので、社内にWebの専門性を担保するのは難しく、“選択と集中”の考えのもと、自社で取り組むべきことと、外部パートナーに委ねるべき領域をどう切り分けるか、大きなテーマです。
千葉さんとのプロジェクトを通じて、まさにその意識が明確になったと感じています。
大手企業×大手支援会社のような関係性ではなく、経営者が専門家と信頼を築き、小さな体制で機動的に進める──そうした協業のあり方に挑戦できたのも、大きな収穫でした。
窪田:
弦楽器は、気に入った楽器を何本も買い替えたり、頻繁に買い足したりするような商品ではありませんので、新しいお客様にどうリーチしていくかは、常に課題でした。
以前は展示会やDMが中心で、Web活用も「SEOとは?」という状態でした。手探りでの運用には限界を感じていました。
千葉さんに関わっていただき、適切な手法によって、これまで届かなかった層にも情報を届けられるという実感が得られ、ようやく「どんな情報をどう発信すれば響くのか」と意識が向くようになりました。
今では、本業に集中できる体制が整ってきました。

堀:
窪田は早稲田大学交響楽団出身で、音楽や楽器についての理解も深く、どうストーリーを組み立てていくか、という点に長けていました。
一方でWebマーケティングに課題感があり、アイデアをどう形にするかギャップを感じていたんです。
そこから知見を深め、専門家との適切な依頼もできるようになり、情報発信の交通整理が進みました。結果としてWebサイトの更新頻度も上がり、発信力が大きく高まったと実感しています。
千葉:
私としても、体制整備が進み、少しずつWeb上での“見え方”が変わってきた実感がありました。
堀:
Web広告やSNSの強みは、施策の効果を定量的に測れる点です。以前はDMや雑誌広告を行っても、なぜ反応があったのか分析できませんでした。
千葉さんの支援で、発信の成果を数値で振り返れるようになり、PDCAを回せる実感を得られました。以前のように「やって終わり」ではなく、改善につなげられるようになったのは大きな変化です。リソースも限られる分、費用対効果が見える施策に注力するのが賢明だと思っています。
弊社へご依頼いただく上で決め手を教えてください。
堀:
以前、大手制作会社に見積もりを依頼したところ、想定を大きく超える金額で現実的ではないと感じました。その後、フリーのデザイナーに依頼した際に質の高い成果が得られたこともあり、「うちには小回りのきく支援パートナーが合っている」と思うようになりました。
千葉さんとは、偶然参加したキューバ音楽のイベントで出会い、「Webで困っていて…」と話したら即座に「それ、できますよ」と言ってくださったのをよく覚えています。
千葉:
私もあのときのやり取りはよく覚えています。まさかキューバ音楽のイベントで、こうしてご一緒するご縁が生まれるとは思ってもいませんでした(笑)
堀:
第一印象はとても気さくな方で、何より出会いが“ビジネス”ではなく“文化”を介したご縁だったことに安心感がありました。「感性が合う」と直感できたのは大きく、もしビジネスライクな出会いから始まっていたら、ここまで自然にプロジェクトが進んではいなかったかもしれません。
私たちは小さな組織だからこそ、ご縁やフィーリングを重視しています。理屈だけで進めても限界がある中で、千葉さんがすぐに動いてくれた姿勢を見て、“信頼できるな”と確信しました。

実際にワンバースとのプロジェクトを開始して印象を教えてください。
堀:
「こういうことをやってみたい」とお伝えした際、私たちの考えを尊重しつつ、より効果的な方法をご提案いただけたのが印象的でした。
“プロの視点を取り入れると、こういう発見があるのだな”と、改めて実感しました。
一方的に受け入れるのではなく、「こうすればもっと良くなりますよ」と寄り添いながら導いていただける姿勢は非常にありがたかったですね。
最初はWeb業界特有の用語や考え方に戸惑いもありましたが、新しい領域に挑戦しているからこその学びでした。結果として、ワンバースさんの支援は、私たちの可能性を広げてくれるものでした。

ECサイト構築もご支援させていただきました。ご感想をお聞かせください。
窪田:
文京楽器のECサイト構築は、特に印象に残っている取り組みです。
当初は、楽器や弓など、これまで店頭で接客を通じて販売していたものが、果たして“モノを見ずに”オンラインで売れるのだろうか?という不安が正直ありました。以前からSTORESでの販売や会員データの蓄積はありましたが、活用しきれていなかったのが実情です。
そうした中で、コロナ禍という大きな転換点が訪れ、来店が難しくなり、オンラインショップへの移行が急務となりました。
実際にECでの販売を進めるにあたっては、ページの構成や見せ方、導線設計など「お客様にとって分かりやすく、安心して購入できるか」という視点がテーマでした。
あのタイミングで千葉さんに支援いただけたことが、大きな助けとなりました。
千葉:
実物を見られないからこそ、安心して購入いただける導線づくりは特に意識しました。
窪田:
特にアルシェというブランドについては「メーカーとしての直販にいつか取り組まなければ」と以前から感じてはいたものの、なかなか具体的な一歩が踏み出せずにいました。
そこに千葉さんのサポートが入ったことで、ブランドサイト上での情報発信から、直販体制の構築まで実現できました。
定価での販売にもかかわらず、着実に売上が立つようになってきており、非常に手応えを感じています。
プロジェクト開始前に千葉さんが話してくださっていた“こうなりますよ”というビジョンが、実際に現実のものになってきたなと、強く実感しています。
堀:
弦楽器専門店としてECを本格的に立ち上げることは、業界内でも先駆的な取り組みだと考えています。 ギター部門を持つような大手楽器店のECサイト上でバイオリンが一部売れているという話を聞くこともありますが、“実際に弾いてみないとわからない楽器”がオンラインだけで売れるというのは、他店の方と話していても、あまり耳にすることがありません。
窪田:
海外の同業者と情報交換をしていても「本当にECだけで売れているの?」と驚かれることがあります。
堀:
インバウンドのお客様がご来店されることもあります。東南アジアや香港、台湾などから来日された方が、弊社の製品を購入してくださるんです。そのきっかけを伺うと、多くの場合は「Webサイトで知った」とおっしゃいます。それだけ、発信している情報が“フック”として機能しているんだなと、自信につながりました。
千葉:
情報をどう見せて、どう響かせるかの重要性はどんどん高まっていますよね。
堀:
先日、出版業界の方とお話しする機会があったのですが、新書の企画傾向について非常に興味深い話がありました。
いまの時代「浅い内容では刺さらない」というのです。
“誰もが書けること”ではなく、“この人しか知らない”という深い情報こそが、この情報過多の時代に本当に価値を持ち、グローバルな文脈でも届くことを実感しました。
千葉:
“その人だから語れる視点”ですね。
堀:
一般的な発信より、“好きで突き詰めてしまっていること”を素直に出す方が、結果的に存在感が高まると感じています。 また、私は「何を伝えるか」と「どう届けるか」の両方が重要だと考えています。内容が良くても届け方を誤れば伝わらず、手段だけ整っていても響かない。だからこそ、情報の質と届け方のバランスを意識することが大切だと思います。
広告運用という観点で、ご感想はありますでしょうか?
窪田:
どんな情報を発信するにしても、今はWebからの流入が中心だと感じています。ふらっと来店される方もいらっしゃいますが、実際には事前にWebでチェックされたうえで訪れていることが多いですね。日常的にWeb広告で情報発信をしていることが、認知のベースとして効いているのだと思います。
堀:
インターネットが当たり前になった今、マーケティングの理論自体も変わってきていると感じます。私たちも、たとえば「AIDMA」のどの段階に向けた施策なのか、ということを意識しながら広告を展開するようになりました。
千葉:
特にInstagramやFacebookでは、ユーザーの興味に合わせて広告が最適化されて表示される仕組みがよくできていますよね。
私自身、以前バレエの上演チケットを購入したのですが、それ以降、SNS上でバレエ関連の広告が表示されるようになり、「つい気になって見てしまう」ことが何度もあり、これぞまさに、”広告の最適化による認知効果”だと実感しています。

先日、LINE公式アカウントやWebでの予約サービスの構築と運用サポートをさせていただきました。
堀:
LINEの登録者数も少しずつ増えており、着実に顧客接点が広がっている実感があります。マーケティング全体の流れも、いまや「発信」から「関係性の構築」=CRMの方向にシフトしてきています。
従来のように、SNSで一般情報を発信するだけでは届かなくなってきており、いかに“個人に最適化された情報”を届けられるかが問われる時代です。当社としても、一人ひとりに合った情報提供の体制構築が、次のチャレンジだと感じています。
千葉:
Webからの予約導線について、その後のご反応はいかがでしょうか?
窪田:
非常にスムーズに運用できるようになり、以前のような個別対応の手間が大きく削減されました。LINE × Web予約の連携によって、お客様にとっても使いやすく、私たちにとっても負担の少ない仕組みが実現できたと思います。 予約状況の整理も進み、管理面でも前進しました。
堀:
人的な間接コストの削減にもつながっており、業務効率化につながっていると思います。もちろん、柔軟な対応は引き続き重要ですが、仕組みが整ったことで、より柔軟な対応も可能になりました。
千葉:
これまで予約して来店される方と、直接来店される方とでは、どのくらいの割合ですか?
窪田:
試奏希望のお客様が多いため、予約をして来店される方が大半です。予約なしで来店されるケースは、お休みの日などにふらっと立ち寄られるパターンですね。ただし、そういった方も、事前にWebで情報をご覧になっていることがほとんどです。
海外からのインバウンドのお客様については、来店された際に購入されるケースが多いです。来店前にはWeb上でメールのやりとりがあり、すでに購入の意思は固まっていて、来店自体は最終確認、ある種の“セレモニー”的な位置づけとなっています。
堀:
最近では、5大オーケストラの演奏メンバーが来日された際、弊社にご来店いただきました。どうやって弊社を知ったのかお尋ねしたところ、日本人のスタッフから弊社を紹介され、Webで検索したうえで、毛替えサービスの予約をしたそうです。
もし、Webで予約できる導線を整備していなければ、来店には至らなかったかもしれませんので、今回の導入は非常に意義深いと感じています。

成功事例をお聞かせください。
堀:
一番の成功は、コロナ禍という未曾有の危機を乗り越えられたことです。
奇しくも2019年に千葉さんとの取り組みが始まり、翌年にコロナ禍に入りました。事業の継続性すら危ぶまれる状況のなか、デジタル化を前向きに進められたのは大きな転機でした。
Webでの情報発信を強化した結果、SNSフォロワーは大きく伸び、たとえばFacebookやX(旧Twitter)は1,000人から1万人超へ、Instagramも数百から3,000人近くまで成長。今では独立系楽器店としては最大規模となり、プレゼンスも大きく高まりました。
この成果は、千葉さんのご支援がなければ成り立たなかったと思っています。また、プレイヤー目線で深く踏み込んだ発信ができるようになったことも、成長の原動力だったと感じています。
窪田:
デジタルマーケティングを推進したことで、新しいお客様との接点が生まれたのは非常に大きいです。アマチュアの方だけでなく、プロプレイヤーのお客様も明らかに増えてきました。これまではご紹介が中心でしたが、今はSNSで文京楽器を知ってくださり、ふらっと来店される方も増えています。
堀:
プロの方は“人づてではないと来れないんじゃないか?”というような先入観があるのでは?と思っていたんです。 ただ、継続的な情報発信によって、なかなかご縁のなかった層の方々にも、気軽に足を運んでいただけるようになったと感じています。
窪田:
実際、プロ・アマ問わず情報収集の手段は共通しており、SNSとの相性の良さを改めて実感しています。特にプロプレイヤーの方々は、SNSを積極的に活用されているケースも多いため、弊社の発信とも非常に相性が良いのだと感じています。

最後に、どのような企業がワンバースのサービスと合いそうでしょうか?
堀:
弊社のような小規模な事業体では、SNSに積極的に取り組めるかどうかで、情報発信の成果が大きく変わると感じています。
パートナー選びにおいては、小回りがきいて信頼できる方と組むことが重要です。
ワンバースさんは専門性もありますので、自分たちが思っている以上の提案もいただけ、期待以上の効果が得られるんじゃないかと思っています。
すべてを内製するのではなく、信頼できるアドバイザーと進めたほうが、結果的に効果が出やすいと感じます。
窪田:
大手の支援会社さんと組むと、こちらの要望がきちんと伝わっているのか不安になったり、提案内容がオーバースペックに感じて“本当に使いこなせるのか?”と迷うことも多々ありました。
千葉さんの場合は、“距離感の近さ”がとても心地よく、普段会っていなくても、まるで“顔を合わせているような感覚”で相談できます。
こちらの漠然とした「こんなことをやりたいのですが…」という話にも、しっかり向き合っていただけるのがありがたいです。
堀:
「まずやってみましょうか?」と柔軟に提案していただける点も非常に助かっています。
何かを試してみたいと思ったとき、既存の予算の範囲内でスモールスタートを提案してもらえるので、意思決定もしやすいです。
アルシェのサイトや記念ページ制作でも、広告から制作体制まで伴走していただきました。もし大手の支援会社にお願いしていたら、調整するべきことも多く、予算を大きく超えてしまっていたと思います。
千葉:
私自身、以前は比較的大きな会社にも在籍していたことがあるので、大手支援会社側の座組や予算感のギャップも理解しているつもりです。ワンバースの立ち位置だからこそ、柔軟に動ける部分が強みになっていると感じています。
堀:
中小企業では、プロジェクトごとに適切な人とチームを組む“ジョブ型”のような座組みが合っていると思います。
納期の圧縮も含め、柔軟な体制でなければ、実際に面白いことや新しいことは実現できないんじゃないかと感じています。
ワンバースさんは千葉さんの人脈網で最適なチームを編成する“親方”的な存在で、弊社のような企業には非常にありがたい存在です。
